不倫慰謝料の減額・免除はできるのか
1 そもそも不倫慰謝料とは
不倫相手に配偶者がいるときや、自分に配偶者がいるのに不倫した場合、不倫慰謝料を請求されることがあります。
しかし、請求された側としても納得できないことや言い分があるでしょう。
そもそも不倫についての慰謝料は何故払わなければいけないのでしょうか。
肉体関係のある不倫は、原則として「不貞行為」という民法上の離婚事由にあたります(民法770条1項1号)。
不貞行為とは、配偶者のいる者が、自分の意思で配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいいます(最判昭和48年11月15日)。
そして不貞行為は、平穏な婚姻生活を破綻させるものとして「不法行為」にもあたるとされています。
したがって、不貞行為により相手に精神的損害を負わせた人は、その損害を賠償しなければなりません(民法709条、710条、最判昭和54年3月30日)。
つまり、不倫慰謝料というのは、不倫をしたことによる損害賠償なのです。
2 不倫慰謝料を支払わなくていい場合
とはいえ、どんな場合でも慰謝料を支払う必要があるわけではありません。
そもそも慰謝料が発生しない場合、発生していても払わなくていい場合、発生していてもより低額が妥当な場合など、様々なケースがあり得ます。
ただ、こうしたケースでも慰謝料を請求すること自体は可能なため、実際に請求されると焦ってしまうかもしれません。
まずは慰謝料が発生しないか、発生していても払わなくていい場合をご説明します。
⑴ 肉体関係がない場合
通常は、肉体関係がなければ不貞行為は成立しません。
不貞行為が成立しない以上、慰謝料も発生しないということです。
ただ、例外的に肉体関係がなくても不貞行為が認められたケースもあり、肉体関係がないからといって安心してはいけません。
東京地判平成17年11月15日
「第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって、第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえない」
上記の他、東京高判昭和47年11月30日など、複数の裁判例で肉体関係のない不倫で不法行為責任を認めています。
⑵ 不倫以前から婚姻関係が破綻していた場合
冒頭でご説明したとおり、不倫は平穏な家庭環境を破壊することで違法となります。
したがって、肉体関係があったとしても、不倫より前に婚姻関係が破綻しており、元から平穏な家庭環境が存在しないような場合には、原則として不倫は不法行為にあたらず、慰謝料も発生しません。
最判平成8年3月26日
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時すでに破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない」
参考リンク:最高裁判所判例集
ただし、上記判例も婚姻関係破綻の例外がありうることを認めており、ご自分の感覚で「もう破綻していたから大丈夫」と判断するのは大変危険です。
また、この婚姻関係破綻の判断は事案によって異なり、明確な基準もありませんが、一般的には、以下のような場合だと婚姻関係が破綻していたと認められる傾向にあります。
・離婚協議中や離婚調停中
・離婚を前提として2年以上の別居
・同居していても、日常会話や接触がなく、家計も分けている
⑶ 不倫相手が既婚者だと過失なく知らなかった場合
不倫に限りませんが、不法行為の損害賠償が認められる条件として「故意又は過失」があります。
例えば、相手が既婚者だと知っていて不倫した場合は故意が認められますし、既婚者だと知らなかったとしても「通常このタイミングで分かったはずだ」と言えれば過失が認められ得ます。
もしこの故意も過失もなかった場合、不法行為の要件が欠けるため、慰謝料は発生しません。
ただ、不倫では過失が認定されるケースが多いため、「知らなかった」では済まされないことが多いことも理解しておきましょう。
⑷ 強制的に不倫させられた場合
あまり多いケースではありませんが,相手からの強制によってやむを得ず不倫に至った場合は、強制された人は慰謝料を支払わなくていいことがあります(横浜地判平成元年8月30日)。
ただし、例えば、相手が上司だったからなんとなく拒みにくかった、相手がしつこくて根負けしたという程度では、強制された側も慰謝料の支払義務を負うことが一般的です。
他方で、強制性交等罪や暴行等にあたるような行為をされたことで不貞行為に至った場合は、原則として慰謝料は発生しません。
⑸ 慰謝料請求権の時効が完成している場合
これまでのケースはそもそも慰謝料が発生しない場合ですが、慰謝料が発生しても時効が完成していれば支払う必要はありません(最判平成6年1月20日)。
不倫慰謝料は不法行為に基づく損害賠償として請求されますが、不法行為には「損害及び加害者を知った時から三年」「不法行為の時から二十年」という2つの時効があります。
ただし、時効期間が経過するまでに請求を受けた場合、通常の時効期間が経過しても時効が完成しないことがあります。
また、時効が完成したとしても、一定の場合に慰謝料請求が認められる可能性もあります(最後の判例とともに解説します)。
⑹ 不倫相手が慰謝料を支払い済みの場合
冒頭で、不倫は不法行為にあたることはご説明しましたが、不倫は一人では行えないため、正確には自分と相手で共同して行う「共同不法行為」にあたります(民法719条1項前段)。
不倫をした当事者が連帯して被害者に対する責任を負うことになります。
例えば、被害者は慰謝料を、不倫の相手方に請求することもできますし、不倫した配偶者に請求することもできます。
しかし、二重取りできるわけではありません。
つまり、もし不倫相手が慰謝料満額を支払っている場合、自分は支払わなくていいということになります。
もっとも、満額を支払った不倫相手から「求償」として自分の負担分を請求されることがあります。
3 不倫慰謝料を請求されたら弁護士にご相談を
不倫慰謝料を支払いたくない場合に支払いを拒みうる例をご説明してきましたが、実際にはそれぞれの状況に応じて検討すべきポイントも様々です。
ご自分の状況に応じて的確な対応をしなければ、状況を悪化させてしまう可能性もあります。
もし、この記事でご紹介してきた場合に当てはまりそうという方は、まずは弁護士にご相談ください。
ご自分の状況で本当に支払いを拒めるのか、どう交渉すればいいのかなど、弁護士が親身になってアドバイスをいたします。